- 映画 - by poohya
『ウィッシュ』感想
ディズニー100周年映画『ウィッシュ』を試写会で観ました。
以下ネタバレありの感想です。
感想としては、70点。普段映画を点数で評価することはないのですが、『ウィッシュ』に関しては素晴らしくもなく否定もできず、70点くらいの出来だなという印象が強いです。
話の弱さは間違いなくて、良い部分もあるけれど、欠点なんかどうでもよくなるくらい良いかと言われるとそうでもない。煮え切らない感じです。
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオから100周年の気合いはすごく感じていて、パークなどがあまり100周年をやらなかったことを踏まえると、その心意気だけでも評価したいです。
内容としては、オープニングから『白雪姫』のオマージュは強く、アニメーション史の様々な作品の引用というよりとにかく『白雪姫』といったところ。細かい部分で色々オマージュがありますが、ピクサーのA113みたいな感じで、だからどうしたというレベル。
お爺さんが100歳の誕生日なのは、ちょっとあからさま過ぎて萎えました。ピーターパンとかメリーポピンズの説明も直接的すぎる。特に日本では『ワンス・アポン・ア・スタジオ』の後に上映させるので、半端なオマージュは不用です。
七人の小人オマージュも別に良いのですが、ならちゃんと7人のキャラクターを際立たせてほしいです。
全体として、薄い映画でした。7人のキャラクターもそうだし、ロサス王国の背景も感じにくいし、みんなの動機が薄っぺらい。
この点は、ヴィランが闇堕ちするのが早かった時点で、どうやらテンポ重視で短くまとめるようだと思えたので、覚悟できてそこまで印象悪くならなかった気がしています。
良かった点は「願い」の捉え方。
願いや夢とは何なのか、ディズニーが100年間描いてきたテーマにこのタイミングで真剣に向き合って、この100年を肯定してきたことは良かったです。
願いを持ち続けることは苦しそうでも、それでも持ち続けることに生きる意味があるんだということは、ディズニーが何のために願いを描き続けてきたのかを示しているようです。
にしてもアーシャのグループで唯一願いを差し出した子のつまらない人間感と、周りの願いを差し出しているはずの大人たちの差がありすぎるだろう。
アーシャをプリンセスではなく平民にしたことは素晴らしかったです。マーケティング的にプリンセスにした方が良いだろうに、そうじゃない道を選んだのもすごい。
プリンセスの生まれの特別感を排して一人ひとりの物語に落とし込んだことは、今の時代に作る価値がありました。
その中で、願いは待つのではなく自分で掴みにいくことを描くのは、ディズニープリンセス史を包み込むメッセージで、100周年の価値がありました。
映画の中で極端に良かったのはThis Wishのリプライズでした。
アーシャが平民なことが効いていて、市民が立ち上がる話になっていました。誰でもヒーローになれるという描写になっているのは素晴らしかったです。
プリンセスを主人公にしないことで、一人一人の物語に落とし込んでいました。
This Wishの最大の凄さは、歌の意味を変えずにクライマックスにリプライズを持って来れるところだと思います。
「求めていたものが自分にとっての正解ではなかった」という話はストーリー展開として定番で、Let it Goがエルサにとっては黒歴史と言われるように、後から振り返ると願いが変わってしまうこともよくあります。最近は、願いを完遂したその後の物語を描くことも多く、最初の願いは違ってはいないもののフィナーレ時点のキャラクター像とは離れていることもあります。
それに対してアーシャはWishソングをクライマックスでもう一度そのままの意味で歌うストーリーというだけで『ウィッシュ』というタイトルの価値があるでしょう。
人々の強さが加わることで、歌詞の奥行きが出るのも良い演出でした。
願いを与えてもらおうと偉い人任せにしていた人々が、願いを失ったことに気付いても自らの力で掴み取りにいく姿はとても良い。待っているだけと揶揄されるプリンセスが自ら行動し掴み取っていくディズニープリンセス史をなぞっているようでした。
ここからは恒例「実質ソフィア」のコーナーです。
「ちいさなプリンセス ソフィア」のネタバレが含まれます。
前提となるソフィア評の詳細は省略しているので以下を読んでください。
プリンセスは「ロイヤル」に変わる。ソフィア最終話が見せた新境地|舞浜横丁
完全に闇堕ちした王に家まで踏み込まれ、逃走したアーシャ一家。
船で国を離れる中で、アーシャは国に残る人たちのために戦うと国に戻ることを宣言します。
ソフィア最終話で見た展開だ。
ソフィア最終話では、悪い女王に国を乗っ取られた国王が船でソフィアたち家族を避難させようとする中、自分はロイヤルなのだから国の人々も家族であり、その家族のために国に戻って戦うことを歌い上げます。
プリンセスではない一市民のアーシャが、国の人々のために立ち上がる行動は、血統上のプリンセスでなくともロイヤルさに溢れた行動です。
全ての女の子に対し誰もがプリンセスになれることを提示するなら、そもそもプリンセスなんて立場じゃなくて良いじゃないかと何度も書いてきましたが、アーシャの立ち位置はまさにそのようでした。
こうしてロイヤルな行動を取り、全市民にロイヤルさを共有したアーシャ。
彼女の願いははっきり示されませんでしたが、最終的にフェアリーゴッドマザーになった姿は、アーシャが最初からロサスで目指していた姿としっかり重なっていました。
ソフィアは最終的にプリンセスとしてのSofia the Firstではなく、魔法の守護者になる道を選びました。
船のシーンからソフィアがちらついていたので、オチまでソフィアなのかよと思いました。
なら100周年記念は劇場版ちいさなプリンセス ソフィアでも良かったんじゃないかな。過去ディズニー作品のオマージュというか直接の登場もたくさんあるよ。