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 - 映画  - by poohya

ネタバレ感想:『モアナと伝説の海』(Moana)

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The Art of Moana

日本では2017年3月公開のディズニー最新映画『モアナと伝説の海』。
本国公開に合わせて試写に呼んでいただいたので、解禁に合わせてネタバレありの感想です。
あらすじ知っている前提で書いているのでご注意ください。

ネタバレなしのレビューはウレぴあで。
【ディズニー映画】『モアナと伝説の海』日本最速レビュー! 海と伝説の物語 美しい南国の世界観は必見! – ウレぴあ総研

ここからネタバレあり

舞台からして好きに決まっている構想で、予告編だけでも大満足していたほどの作品でしたが、やっぱり中身も素晴らしい出来でした。
冒険ものながら何度でもゆっくり見たくなる世界観。
最近の「第三黄金期」テイストとは少し離れた、重みのない作品に感じました。
悪役探しの謎解きや綿密な伏線もなく、すーっと入ってくる軽やかなストーリーはとても気持ちの良いものでした。
第二黄金期っぽさがあちこちに出ていて、あの頃のやり方を現代の3DCGに持ち込み、新たな歴史を刻むんだなという意気込みを感じました。
その分、近年の作品からすると余計なシーンもあり、受け入れられるのかちょっと心配もしてしまいます。
プア(豚)が旅についてこなかったことは非常に残念です。
Art of Moana見る限りある段階まではプアもついてくる予定だったんだよな…

冒頭はモアナの世界の伝説のあらすじ。
マウイって悪いやつなの?というところから入ります。
実はこのあらすじは村のおばあさんの昔話。
怖がる子供たちの中で、目を輝かせて聞く女の子がモアナです。

印象的なモアナの初登場は、この後の海と友達になるシーンへとつながります。予告編として出ていたシーン。
亀を助けたことから海と友達になったように見えましたが、ここで海はモアナに伝説の「心」を渡します。
海がモアナを選んだ瞬間でした。

しかし、海は危険な世界とされており、サンゴ礁より外界へ行ってはいけない掟があります。
一方でどうしても海にひかれてしまうモアナ。
この気持ちが歌になり、モアナの心の葛藤を象徴するメロディになっていきます。

『モアナと伝説の海』は、「本当の自分を見つける物語」。
モアナはなぜ海に魅せられたのか、それは自分の心に宿る旅人としての伝統でした。
危険だからと禁じてはいますが、モアナの父もかつて海に魅せられており、旅人の伝統を知りながら、そんな本当の自分を隠して長として振る舞ってきました。
一方、伝説の通りに世界は壊れていき、ついにモアナの島も不漁不作に悩まされるようになりました。
祖先の真実を知り、自分が「海に選ばれた者」だと知ったモアナは伝説の通り世界を救うため、外界へ旅に出ることを決心します。

このシーンの前、不漁の知らせを聞いたとき、モアナはサンゴ礁の外で漁をしようと主張、父から自分が海に出たいのに人々の危機を利用するなと怒られます。
モアナがこれまで海をあきらめてきた理由として、立派な島の長になるため、という大きな目的がありました。
これはアリエルやジャスミンのような、窮屈な暮らしから外に憧れるプリンセスの図式です。
しかし、マウイにプリンセスと呼ばれてきっぱり否定している通り、モアナはプリンセスとは大きく異なります。
モアナは島の長になることと自分の心が海に行きたがっていることの矛盾に葛藤し続け、ついに自分の心に従うことこそ長の伝統であり島を救うことだと気付きます。
自分の窮屈な立場から解放されるために外へ出るのではなく、長の役割を真剣に果たすために外への冒険をするのです。

島の英雄になる責任を果たしに旅に出たモアナが出会うのは、世界の英雄でありながら現在は悪い神と思われている半神半人のマウイ。
ここでいかにもディズニーらしい曲がまたやってきました。
3DCGの中で2Dっぽさを描きカートゥーンチックな要素を盛り込み、曲の力を最大限発揮させるのは、これまでに培った技術の賜物でしょう。
ずっしりしたストーリーを3DCGで描く第三黄金期にはたやすくできない技です。

その後、マウイが釣り針を取り返すまで、別に無くてもストーリー上問題なく、特に後の伏線に繋がるわけでもないシーンが続きます。
楽しい妄想発表タイム。
個人的には、綿密なストーリーぎっしりの作品はピクサーに任せて、ディズニーはこういうシーン入れて楽しくしようよ派です。
カニのタマトアも自分を偽るために光るもので身を覆い、海賊のカカモラもココナッツだけで姿は見えず、どちらも「本当の自分」を隠して生きている者たちがモアナの“敵”になっていきます。

一方でタマトアと釣り針の取り合いを見せるマウイもまた、釣り針の魔法の力に頼り、自分をヒーローに見せるために行動しています。
この背景として、人間として生まれたものの捨てられ、神に拾われて釣り針を与えられ半神半人となったことが明かされます。
ゴミとして扱われた自分を、ヒーローとしての活躍を描いたタトゥーで覆い隠している様子はタマトアと変わりません。

海に選ばれたモアナと、神に選ばれたマウイ。
この世界の2大偉いものに選ばれた2人は、それぞれなぜ自分が選ばれたのか考え、そこに答えがあると思います。
しかし旅の中で2人は、自分が選ばれたのではなく、自分の心に従っただけなのだと気付き始めます。

いよいよテカーとの戦い。
マウイは敗れ、釣り針も大きなダメージを受けて残り1回で壊れてしまうほどに。
釣り針がなくなれば自分の価値がなくなると思うマウイは戦うことをあきらめます。
一方のモアナは超ライオン・キング展開。
ライオン・キングのように立ち上がり、モアナは単身テカーに挑みます。
危ないと思ったところでマウイ登場。
釣り針がなくなっても自分は自分だということに気付きます。
この後そんな釣り針が帰ってくるは良い意味でも悪い意味でもディズニーらしい。
そしてモアナは、テカーこそ心を失ったテ・フィティなのだと気付きます。

最初からモーセのように海を開き、テカーを呼び寄せてから海をもとに戻せばテカー死ぬじゃん。海最強じゃん。と思っていたのですが、それではだめ。
テカーに心を返さないとテ・フィティは戻らず、それこそ海がこの心を人に託した理由なのでした。

めでたく元に戻った世界でモアナはマウイに教わった伝統航法を使って再び航海に出て、新たな島を目指す旅を始めます。
後の島の歴史からしてみれば、この物語はモアナが伝統航法を復活させた物語。
モアナは民族の伝統に一ページを刻んだのです。

『モアナと伝説の海』も、ディズニー長編アニメーションの伝統に一ページを刻む作品。
第二黄金期の監督が伝統あるディズニーらしさ、すなわちディズニーの「心」を、現代の技法で描いたものです。
セリフがあるのはモアナと父チーフ・トゥイ、母シーナ、タラおばあちゃん、マウイとタマトアくらい。
恋愛も悪役も謎解きもない、シンプルなディズニーらしい物語は、ぐっと心にしみ込んできました。

でもプアがついて来なかったのは残念。

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