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アイガー自伝「ディズニーCEOが実践する10の原則」を読んだ


ディズニーCEOが実践する10の原則

ウォルト・ディズニー・カンパニー前CEOロバート・アイガーによる自伝「ディズニーCEOが実践する10の原則」(The Ride of a Lifetime)を読みました。
(原書発売時にちょっと読んでいましたが邦訳発売の報が出てからは日本語で読めるまで待とうと放置していました)
間違いなく必読の一冊。
巨大企業のCEOによるビジネス本の体裁ですが、ディズニーファンにとっては重要な歴史書です。

買収され買収するアイガーの歴史

基本的に時系列に沿ってアイガーの経歴を辿っていく内容で2部構成になっており、第1部がCEOになるまで、第2部がCEO時代の話です。
アイガーはテレビ局ABCに入社し、着々とキャリアアップを果たしていきます。
そんな中、当時ディズニーを率いていたマイケル・アイズナーがABCを買収。
アイガーにとってABCで買収“された”側を経験したことが、後に買収“する”側の立場になる伏線となっていきます。
CEO時代となる第2部は、ピクサー、マーベル、ルーカス、FOXを買収する話がほとんど。
ABC買収というアイズナーの大きな功績が、アイガーによる4回もの巨大買収へと繋がっていきます。
4回の中でも最初の買収であるピクサー買収が、アイガーが作ろうとしたディズニーの姿を大きく決定付け、後にディズニーに自分の事業を売却することになるジョージ・ルーカスなどの行動に影響を及ぼしていく様子が描かれていきます。

コンテンツ、テクノロジー、世界展開

アイガーCEOのテーマとなっているのが、コンテンツ、テクノロジー、世界展開の3点。
ピクサーを単なるコンテンツではなく、テクノロジー会社としても見ています。
また、マーベル買収時に語られた、これまでのディズニーキャラクター総数を上回る7000ものキャラクターを手に入れたという話は、アイガーのコンテンツ量という考えにおいて重要であることが見て取れます。
そして、アイガーの集大成として登場するFOX買収。
Disney+と同時進行で展開されていくFOX買収は、コンテンツ、テクノロジー、世界展開の3点を全て押さえていることが念を押して語られています。

新たな視点で見るアイズナー追放とピクサー買収

巨大なスケールで語られる物語の中でも激動なのが、ロイ・ディズニーによるSave Disney運動によってアイズナーが追放され、アイガーがCEOに就任し、ピクサーを買収するまで。
Save Disneyはロイ側の視点から見られることが多かったですが、ロイが亡くなったことで配慮する必要が無くなったのか、攻撃された側の視点からロイをかなり辛辣に語っています。
「亡くなって久しい叔父のウォルトも含めて、ディズニーの中でロイに敬意を払う人は少なかった」とまでの言いよう。
ロイに対しての文で印象的なのが、「ロイは過去を尊重するのではなく、ただ崇めたてまつるタイプで、どんな変化もなかなか受け入れることができなかった。」(p151)という一文。
思い出したのは、アイガーがカンブリア宮殿に出演した際にした発言「過去は敬うが崇拝はしない」でした。
アイガーのスタンスがこの部分に大きく現れています。
ディズニーに買収“された”立場出身のアイガーが、これまでのディズニーでは考えられなかったような買収を“する”CEOになっていきます。
その第1歩がピクサー買収ですが、これはピクサーを買収しながらジョン・ラセターらをディズニーアニメーションのトップに据えるという、逆買収のような状態。
このときピクサーの風土を全て残すよう努めたこと、そしてスティーブ・ジョブズとの関係が、後のマーベルやルーカスフィルムの買収に大きな影響を及ぼしていきます。
アイズナー時代にこじれにこじれたジョブズとの関係を救ったのは、伝統に囚われないテクノロジーへの視点。
iTVの構想が後のDisney+をはっきりと予見しており、Disney+に対しても「ジョブズが生きていたら何と言ったか」を考えてしまいます。

書かれていないパークの話

マイケル・アイズナーもディズニーCEO時代の自伝「ディズニー・ドリームの発想」を出版していますが、各パークやシアトリカルなど様々な部門を手掛けた話が詰まっています。
それに対してアイガーの自伝では、ピクサー買収に関連してアニメーションへの言及は多いものの、パークの話がほぼ出てこないのが印象的です。
上海ディズニーランドは用地決定から関わり、自身がCEOとして開業させたのに、プロローグのエピソードでしか登場しません。
また、米国でこの自伝が出版されたのはアイガーがCEO退任を発表する前だったのでアイガーを継ぐボブ・チャペックもあまり出てきません。
それより次期CEO候補とされていたトム・スタッグスが右腕として何度も登場します。
チャペックはCEO就任直前までパーク部門のトップでしたが、CEO就任時に発表されたチャペックの経歴は映画やDVDからパークまで渡ったとし、「一貫して消費者向けビジネスをになってきた」とされています。
消費者向けビジネスはD2C(direct-to-consumer)として終盤のDisney+立ち上げにおける大きなキーワードになっており、現在のディズニーの課題に直結していることがわかります。
そしてFOX買収がインドでのD2C事業での大きなシェアを獲得できることが語られますが、もはや中国よりインドを強く意識している姿を感じます。
アジア部門が再編されているのもその影響を感じます。そして日本が放置されていく…

後継者選びやパークの記述がないほか、ラセター追放の理由もうやむやで、metoo問題への対処を「正義の代償」と銘打つ割にはジェームズ・ガンの解任と取下げには触れず。
そしてCEO退任後は政界に進出しそうな気配を漂わせています。
もし大統領になったら、ディズニーの元CEOのオーディオ・アニマトロニクスがホール・オブ・プレジデンツに入ることになりますね。

必読

とにかく必読の一冊。
ディズニーの歴史を知る上で重要な内容であることは間違いありません。
紙の書籍を残しておきたい一方、すぐに検索して参照できる電子書籍も有用。
原書、邦訳版、kindleと3冊分買ってしまいましたが、その価値がある内容です。

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