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 - 映画  - by poohya

ネタバレ感想:くるみ割り人形と秘密の王国

2018年11月30日(金)公開の映画『くるみ割り人形と秘密の王国』を試写会で鑑賞してきました。
以下ネタバレありの感想です。

ネタバレなしはこちら。
【ディズニー映画】クリスマスに観たい美しい世界『くるみ割り人形と秘密の王国』ネタバレ無しレビュー – ウレぴあ総研ディズニー特集
あえて海外レビューで散見される「美しい世界観」をタイトルに持ってきています。つまりみんなそこしか推せないだろうという映画です。

決して悪くはなく、映画として一定のクオリティに達しています。
ただ片手間で作っただろという感じの、特にこれといって良くもなく悪くもなくといった印象。
年に1本くらいある外れ映画としては非常に良い作品ですが、その枠ではなく期待していた作品だっただけに残念。

さて、舞台はクリスマスイヴのロンドン。
バレエ「くるみ割り人形」の音楽にのせて、ロンドンのクリスマスの風景が描かれます。
クリスマス最高。
今から思えばこの時のワクワクがピークでした。

主人公のクララが「秘密の王国」に着くまでの現実世界パートでは、「くるみ割り人形とねずみの王様」の原作ストーリーの要素を散りばめながら、バレエの音楽、実際のバレエも織り成して構成されています。
最初のピタゴラスイッチでクララが捉えるのはネズミ。
仲の良い弟がもらったプレゼントはおもちゃの兵隊とくるみ割り人形。
ところがこれは単に原作へのオマージュという扱いのようで、伏線としての回収は行われません。
弟のプレゼント関係ないのかよ。

「秘密の王国」はクララの母が発見した国。
クララはなんと王国のプリンセスでした。
母はクララ同様手先が非常に器用で、おもちゃに命を与える機械を発明。
そのおかげでお城を中心とした4つの国が栄えます。
しかし、「第4の国」だけは国の転覆を図っているらしく、他の国の者は立ち入るものさえいません。
クララが出会った兵隊も第4の国に入ることを渋りますが、鍵をネズミから取り戻したい彼女は第4の国にいくことを命じます。
ただ、地図を見るとクララが来たクリスマスツリーの森から城に行くには第4の国を通るしかなく、プリンセスのクララが来た以上どのみち第4の国を通過するしかありません。
ここら辺の設定が緩いのがモヤモヤします。

とにかくプリンセスとして迎え入れられたクララは帰還パーティーを開かれます。
王国はドロッセルメイヤー邸の時計の中にあり、現実世界と時間の進み方が異なっていること、つまり長居しても現実世界に影響がないことが説明されます。
ここまでほぼナルニア国物語です。この先もだいたいナルニアみたいなものだけれど。
クララはドレスに着替え、第4の国を除いた3つの国でお披露目パレードを行います。
せっかく「花の国」「お菓子の国」「雪の国」の摂政がいてそれぞれの国も描かれるのに、3つの国に触れるのはここだけ。
こんな世界に行ってみたいと思わせるような世界観を見せてくれません。
別次元を描くのに、この国にはどんなものがあるんだろう、どんな人がいるんだろう、探検してみたい、という気持ちがわかないのは非常に残念です。本当に勿体無い。

そしてバレエシーン。
本物のバレエを鑑賞します。
オーケストラはファンタジアへのオマージュ。
よく考えたら「くるみ割り人形」の知識はバレエよりもファンタジアの方が多いですね。
バレエとファンタジアはエンドクレジットでも見られます。
生でバレエを見たことはありませんが、バレエの表現力はすごいなと思いました。

あとは第4の国で鍵を手に入れ、プレゼントを開けるも鏡で、それが自分自身が必要だという意味だと気付き、そんな間に黒幕が明らかになり、知恵を使って勝って、めでたし。

花とお菓子の国の摂政は存在意義すら危うく、脱出に作用反作用の法則を使う発言をした割にはロープ巻きつけただけ。
さらにおもちゃの兵隊軍とネズミの戦いはネズミが勝つという原作要素の逆展開。
前半の伏線は伏線ではなく単なるオマージュだということを明らかにしながら、ただ頑張ってクララが勝っていきます。

母親の存在だけで突然プリンセスになったクララ。
徐々に決まり切ったプリンセスの行動ではなく、自分を信じて行動することを学んでいきます。
ちいさなプリンセス ソフィアです。くるみ割り人形というより実写版ソフィアです。
プリンセスとしての行動に新しさはありません。
むしろソフィアより古く、第二次黄金期あたりのプリンセス像をやっと獲得した感じに見えます。
実写版『シンデレラ』が生まれる前のことのような話。

列挙したらすごくダメな映画みたいな感想になりましたが、決して酷い作品ではありません。
ただ惜しい展開ばかりで、もっと上手く作れば良作になれただろうなと思うシーンばかり。
原作改変型実写化で直前公開の『プーと大人になった僕』が上手に作っていた分、原作オマージュやそれを生かした伏線回収が下手なのが目についた感じはあり、タイミング損な気もします。
曲はアレンジ含めてすごく良く、やっぱりクリスマスの心地良さは格別で、それを味わう価値はあると思います。

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