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『プーと大人になった僕』という邦題が素晴らしい

映画『プーと大人になった僕』が9/14に公開されます。
原題は「Christopher Robin」なのですが、邦題は大幅に変えてきました。いつも通り不思議な邦題だなーと思っていたのですが、やっと意味に気付きました。
非常に良くできた邦題です。

『プーと大人になった僕』は、クリストファー・ロビンがプーとお別れしてから何十年かたった後の物語。
大人になり、ロンドンで暮らすクリストファー・ロビン。
結婚し娘も生まれた彼は、仕事で悩みを抱えています。
そこにやってきたプーたちがクリストファー・ロビンを助けるために奮闘するというストーリーです。

実写化の意味

プーの物語構造は意外と複雑で、「クマのプーさん」は、A.A.ミルンが息子クリストファー・ロビンにお話を聞かせる形式で語られ、そのお話の中に100エーカーの森が登場します。
冒頭ではプーはあくまでぬいぐるみとしてクリストファー・ロビンが持って登場しています。
ディズニー映画でも、オープニングはクリストファー・ロビンの子供部屋で、実写セットで撮影されています。
子供部屋に置いてある本に飛び込むとアニメーションの100エーカーの森が広がります。
ざっくり言うと、100エーカーの森は物語(アニメーション)の世界、それ以外は現実(実写)の世界となります(実際には100エーカーの森にも現実世界が重なっていてもっとややこしいのですが)。
『プーと大人になった僕』の舞台は、クリストファー・ロビンが大人になった時代のロンドン。
ロンドンが舞台ですから、実写で描かれるのはプーにとって当然のことなのです。

原作は4作ある

ディズニープー長編のほとんどは原作「クマのプーさん」「プー横丁にたった家」のストーリーを元にしたものです。
しかし、実は原作はこれだけではありません。
一般的に「プーもの」と呼ばれるのは、この2作に詩集2作を加えた、計4作品です。
この詩集の舞台は100エーカーの森ではなく、クリストファー・ロビンの部屋であったり、バッキンガム宮殿であったり、ロンドンを中心としたあちこちで展開されています。
舞台が違い、メインはクリストファー・ロビンでプーが少し登場する程度なので、ディズニー化はされていません。

舞台・時間軸・リスペクトを見事に取り入れた邦題

ここまでが前提で、やっと本題です。
原作の詩集2作品のタイトルは以下の通り。
「クリストファー・ロビンのうた」(When We Were Very Young)
「クマのプーさんとぼく」(Now We Are Six)

「クマのプーさんとぼく」は『プーと大人になった僕』と似ていますね。
さらに詩集の原題を見てみます(この2作品は直訳した邦題が使われることも多い)。
「ぼくたちがとてもちいさかったころ」「ぼくたちは六歳」と、“ぼくたち”+年齢という形になっています。
『プーと大人になった僕』は、詩集2作品の邦題と原題を組み合わせた形になっていることがわかります。

この詩集は舞台が100エーカーの森ではなく、クリストファー・ロビンが住むロンドンです。
そして出版の時間経過に合わせて、プーとクリストファー・ロビン(ぼくたち)の年齢が上がっていっています。

今回の映画の舞台は、クリストファー・ロビンが住むロンドン。
時間軸としてはプーとクリストファー・ロビンが別れた何十年か後、クリストファー・ロビンが大人になった時代です。
これを詩集のタイトルに合わせると『プーと大人になった僕』になります。

より正確には「大人になったプーと僕」が準拠している形ですが、この映画でプーは大人になっているのでしょうか?
年齢的にはプーはクリストファー・ロビンの1歳下ですが、この映画を通してプーが大人なのか子供なのかというのも大きなポイントになると考えると、『プーと大人になった僕』は非常に上手い邦題だと言えます。

ロンドンでのプーとクリストファー・ロビンの交流、大人になったという時間経過という今作の重要なポイント2つを、原作のタイトルに沿った形で表現した、見事な邦題です。


クマのプーさん全集―おはなしと詩

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